歯を失うと認知症が進行する?知っておきたい噛む力と脳のつながり

年齢とともに歯を失ってしまうことは、誰にでも起こり得る自然な変化です。「噛みにくくなったけれど、歳だから仕方ない」と思っている方も多いかもしれません。
しかし近年、「歯を失うこと」が見た目や食事だけでなく、脳の健康にまで影響を及ぼす可能性があることが、国内外の研究で次々と報告されています。中でも注目されているのが、噛む力の低下と認知症の進行との関係です。
この記事では、なぜ歯の喪失が脳の働きに影響を与えるのか、噛む力と脳のつながりについての最新研究を紹介しながら、認知症リスクを抑えるために今からできる対策をわかりやすく解説します。
目次
「噛む」という動作が脳に刺激を与える理由
「噛む」という行為は、単に食べ物をすり潰すための動作ではありません。実際には、食事中にあごを動かして噛むことで、脳のさまざまな領域が活性化されることが明らかになっています。
中でも特に重要なのが、「海馬」と呼ばれる脳の部位です。海馬は記憶の形成や空間認識を担っており、認知症、特にアルツハイマー型認知症との関係が深いことで知られています。
食べ物をよく噛むことで、海馬を含む脳内の血流が増加し、神経細胞の活動が活発になるというメカニズムが働きます。つまり、しっかり噛むことは、日々の生活の中で自然に脳を刺激し、認知機能の維持に役立つ習慣だといえるのです。
研究が示す「噛む力」と認知症リスクの関係
噛む力の低下と認知症との関連については、いくつかの研究が明確なデータを示しています。
東京医科歯科大学が高齢者を対象に行った研究では、奥歯でしっかり噛めない人ほど、認知機能が低下している傾向があることが確認されました。特に、歯を失ったまま放置している場合、前頭葉や海馬などの脳の重要な領域で萎縮が進行している可能性が高くなるとされています。
また、日本老年医学会が2018年に発表した調査によれば、残っている歯の本数が少ない高齢者ほど、認知症の発症率が高いことも明らかになりました。具体的には、20本以上の歯を保っている人と比べて、10本以下の人は認知症の発症リスクが約1.9倍になるという報告もあります。
これらの研究は、「噛めるかどうか」が、単なる生活の快適さではなく、脳の健康そのものに深く関係していることを示しています。
歯を失ったまま放置すると何が起こる?
歯を失ったあと、何もせずに放置していると、さまざまな健康リスクが生じます。
・脳の刺激が減少する
噛む機会が少なくなることで、脳への刺激が減り、海馬などの認知機能に関わる部位の働きが鈍くなってしまいます。
・栄養バランスが偏る
噛みにくさから柔らかいものばかり食べるようになると、野菜や肉、玄米など栄養価の高い食品を避けがちになります。ビタミンやミネラル、タンパク質の不足は、脳機能の低下を招く要因です。
・会話や外出の意欲が低下する
噛みにくい、話しづらいといった口腔機能の衰えは、人前に出るのが億劫になったり、会話の機会が減ったりすることにつながります。社会的孤立も、認知症リスクを高める要素のひとつです。

噛む力を保ち、認知症を予防するためにできること
では、噛む力を維持し、脳の健康を保つためにはどのようなことを意識すればよいのでしょうか。ここでは、日常的に取り入れられる予防法をご紹介します。
1. 定期的な歯科検診を受ける
虫歯や歯周病を放置すると、歯を失う原因になります。歯の健康を保つには、年に1〜2回は歯科を受診し、早期発見・早期治療を心がけましょう。
2. 義歯やインプラントを活用する
歯を失った場合、そのままにせず、義歯(入れ歯)やインプラントで噛む機能を補うことが重要です。しっかり噛める状態を保つことは、脳への刺激にもつながります。
3. 食事の際によく噛む習慣をつける
一口につき30回を目安によく噛むように意識してみましょう。噛みごたえのある食材(ごぼう、玄米、りんごなど)を取り入れることもおすすめです。
4. 口腔機能を鍛える体操を行う
「パタカラ体操」や「あいうべ体操」など、口や舌の筋肉を動かすトレーニングを取り入れることで、噛む力や発音の維持に効果があります。簡単な運動なので高齢者でも無理なく続けられます。
まとめ|噛めることが、脳の元気を守る第一歩
歯を失うこと自体は、避けられないことかもしれません。しかし、その後のケア次第で脳の健康状態を左右できるということを、ぜひ覚えておいてください。
「噛める状態を保つこと」は、食事の楽しみだけでなく、記憶力・判断力・意欲といった脳の基本機能を守る鍵でもあります。
「年だから仕方ない」と諦める前に、できるケアから始めてみませんか?毎日の食事と口腔ケアが、これからのあなたの脳を支える力になります。
医療法人隆歩会 京橋あゆみ歯科クリニック
院長 野田大介